こんにちは。IT/経済ジャーナリスト、投資家の渡辺です。
冬季オリンピックのアホみたいな報道の後ろで見た経済ニュースで、ふと思うことがあったので、記しておきます。
●岩田日銀副総裁:「私はもう再任されないと確信している」-講演
当たり前のことですが、借りた金は返さないといけませんし、返せないならデフォルト(破産)するしかありません。
●国家がデフォルトすればどうなるか。
私たちの記憶にあるところで、南米とか韓国、ギリシアで例がありますが、国家のサービスが停止し、大幅な円安になって物価が上がり、生活を直撃、国外の資金量にもよると思いますが、IMF(国際通貨基金)から融資を受け、その代わりに管理下に入り、社会保障、特に年金のカット、借金の減額とその代わりの金融機関の破綻(預けたお金の消滅)など、数年程度の改革の痛みに耐えることになるかと思います。
すぐに死ぬことはないでしょうが、何の備えやリソース、ネットワークもない世帯では貧困や病気で生活レベルが下がり、またそれをサポートする社会的な扶助がないので、日本全体の平均寿命が目に見えて下がることにはなるでしょう。
●借金を減らせない理由
将来的な破綻を避けるには、少しずつでも国の借金の返済をしないといけないわけですが、そのためには増税が必要となります。
ところが「増税」を公約にすると、マスコミが無責任に煽り、それに呼応した有権者が投票しないので、選挙で負けます(もちろん日本の統治機構には山ほど無駄があるので、そこをスリム化しないといけないのはその通りなんですが)。
そうなると、破綻すると分かっていても、政治的には「増税をしない」というしかなくなります。本来であれば選挙で「増税するか、しないか」を争点にすべきですが、争点がなくなるので、モリカケとか香典とか、国家の将来設計には何の関係もないネタで騒ぐしかなくなります。
プロレスでいえば、リング上のストロングスタイルの攻防をすべきなのに、ひたすら場外乱闘して一向にリングに上がってこない、しょっぱい試合という感じです。
●リフレ派の登場
この政治的なジレンマを解消する錬金術的なアプローチを説いて、一躍政治家に任用されたのが、「リフレ派」と呼ばれる経済学の一派です。
リフレ派というのは、インフレで景気が上がるという前提で、インフレ目標値を定め、そのために金利を下げるなど市中への貨幣供給量を増やして量的緩和をしたり、さらに国債=国の借金を日銀に引き受けさせたりして、経済をインフレ方向にコントロールしていこうという経済学の一派です。
そもそも経済学自体が厳密な学問っぽい要素と社会科学的な恣意的、嗜好的な要素で成り立っている上、エコノミストと一口で言っても、以下の事例のようにいろいろな人がいます。
- 真面目に経済や社会の仕組みを学問している人
- 数学が得意で経済事象をネタに数遊びをしている人
- 商売として学問している人、
- 経済知識のあるタレント、ライター
- 単なる株式ブローカーの広報・宣伝の方
- 文章や話の上手い投資家
ということで、エコノミストと称する人を頭から信じてはいけないのです。マーケットというのは、様々な人の野望や欲望の渦巻く場所なんで、騙された方がアホ、ということなんでしょうが。
それでも、「増税をしなくても、日銀が頑張れば景気が上向き、それで税収も増え、国民の幸福度をキープしつつ国の借金を解消できる」という甘い言説を唱える犬儒的なグループが現れ、政治家のニーズに合致してしまいました。
自然科学と違って、社会科学は真偽の確かめようがないので、何だか論理的に辻褄が合っているように見えたのでしょうか。
●貨幣の供給量を上げても景気が上向かない3つの理由
確かに小学生の頃(昭和)、社会科で日銀は景気の番人であり、公定歩合で景気をコントロールしていると習いました。
景気が過熱すると利率を上げてお金を借りにくくして市中のお金の量を減らす、逆に景気が下向いたら利率を下げてお金を借りやすくして、お金の動きを活性化する、という理屈でした。
ところが、複雑系である経済の動きを、特に昔と違ってグローバル化で複雑度がさらに増した現在、株価や為替などに一時的に影響は与えられるにせよ、人智でコントロールできるというのは勘違いでしかありません。
特に以下の条件を考慮するべきでしょう。
- 昔はハングリーだったので、借金しても新しい事業を始めようという一定の需要があったが、今は最低限の食糧は確保できる、リスクを極端に嫌う社会的な性向、若年層の物欲の低さ、高齢化の進展で、お金の量が増えても借り手がなく経済的な動きが発生しない
- 危機的な国家財政、上がらない給与、少子化などで楽観的な将来がイメージできないため(実際に経済規模はコンパクトになるのではないか)、せっかく供給したお金が消費より貯蓄に回る
- 金利が5%とか7%とかあった時代は、事業家は金利の動きに敏感であったが、今はゼロ金利なので、そもそも動かせるレンジがほとんどない
一見、リフレ派経済学も数式とか使って科学的に見えたのかもしれませんが、上記のような社会環境的な要因が考慮されておらず、その意味では不完全な、あるいは誤った理論で、国家運営をしてしまったというしかありません。
そもそも、インフレ=経済成長で好景気と定義しているが、生産者の立場では利益になるが、消費者の立場では負担であり、一長一短あるわけで、単純に形式化できるものではありません。
●まとめ
水滸伝とか見ていても誤った、もしくは故意に歪められた学説を持った学者が権力者に近づき、あるいは重用されて国の運営を誤ったという事例はよく出てきます。
ここ数年のリフレ派の経済理論にもとづく経済運営も、人類史で見れば、よくある出来事の一つなのでしょうが、内部にいる私たちはたまったものではありません。
アカデミックの現場でのリフレ派の旗手であった副総裁の退任で、少しずつでも正常な方向に軌道修正されることを強く願わずにはいられません。
何が起きて、それにどう対処すれば良いのかは以下の参考文献にあるよう、明確ですので、投資家としてはそれを考慮したアセットアロケーションをすれば良いという結論になります。
現金の価値が下がるので、資産の一部を外貨や株で持つことや、田舎の農家など食材の供給ルートを持つとか、今からでもやれることを少しずつやって行くことをお勧めします。