こんにちは。IT/経済ジャーナリスト、投資家の渡辺です。今日は意外に理解されていない「売り」に付いてご説明したいと思います。
初級者の方が感覚的に分かりにくいのは、下落で利益を取る「空売り」です。
以前ご紹介した林先生の本でも、知識も技量も低いのに専業投資家に転身した、やたら高慢な方が信用買いは知っていても、信用売りは知らないという事例が紹介されていました。
長いこと株の売買をしている方でも、意外に知らないし、何か怖いものというイメージがあるので、やったことがない方が少ないかとも思います。
それでも、空売りを有効に使うことは覚えておいて損はありません。
株価は何かネガティブなニュースや出来事で容易に下落するからです。
俗に上がるのには100日掛かるが、下落は3日ですとーんと落ちるといわれているほどです。
安く買って高く売るの裏が高く売って安く買う=空売り
株はあがることもあれば、下がることもあります。基本は安いときに買って上がったら売り、その差益(キャピタルゲイン)を取るということで良いかと思います。
しかし下がるときには、自分の資産が少なくなったり、時にはマイナスになるのを指を加えて見ているしかありません。
資金に余裕があれば、暴落時は買い増しのチャンスではあるのですが。
実は「安く買って高く売る」の反対を、つまり「高く売って安く買う(=買い戻す)」をしても、利益になるわけです。これが「売り」です。
イメージとしては、いまある商品が500円で売れる状況なので、売掛(後払い)で200円で仕入れてきてすぐに売り、あとで製造元に200円を支払えば、差額の300円が利益になるという感じでしょうか。
自分が商人だとイメージすれば、1)市場ではできるだけ高く売り、2)仕入れ元にはできるだけ安く支払えば、利益になるということです。
ですから株価が今は高いけれど、これから下がりそうなタイミングの時には、株を持っている人から株を借りて、株を売り出すことができます。
実際に損益をシミュレーションしてみる
以下のグラフで事例を示しますが、たとえばある株を800円で空売りしたとします(赤丸のところ)。このあと株価(横軸)が下がってくれれば、下がった分だけ利益(縦軸)になります。
理論的には株価がゼロになったら、そこで打ち止めであり、それ以上の利益は得られません。ゼロになるということはその会社が倒産や廃業して市場から消えることですから、滅多にあることではないですが。
空売りで注意しないといけないのは、逆に金融緩和などで急激に株価が上昇する場合、損失が広がってしまうことです。
売りの場合は株価はゼロより下にならないので、そこが利益の上限です。
この事例では売りポジションの売値800円が最大利益です。
理論的には損失無限大がリスク
逆に損失について考えてみます。
損失については、何らかの理由で株価が上昇してしまうと、青天井で損失も増えていきます。
株価が1,800円になったら損失1,000円、5,800円になったら損失5,000円、最大利益800円から考えると、割に合わない損失のリスクです。
流石にどこかで株価も止まると思いますが、理論的には「損失無限大」とも言われるので、実際に売りポジションを作る場合は、グラフを見ながらある程度上がり切ったところで参入するのは言うまでもありません。
さらに資金を潤沢に用意すること、逆指値で損切りラインを設定しておくなどの予防措置も必要です。
あとは編集人のやり方では、空売りをしたい銘柄についてはあらかじめ買いポジションを保有しておき、そのポジションの範囲内でのみ売りを行うという技法もあります。
この場合は、最悪、買い持ちのポジション(買い玉)の上昇分の利益と売りのポジションの損失が並行移動して相殺されるので、損はしないで済みます。
この技法を「ツナギ」といいますが、この使い方については、あらためて詳しく説明したいと思います。
日々の貸株料や利息も掛かる
ただ編集人としては当時と状況が違う点に、注意しないといけないと思っています。林先生の本が書かれた昭和後期は、普通預金でも利子が7%とか8%とか付いていた時期でした。
その時に株を借りてくると、(借りた株の毎日の利子=日分)−(公的な利率)がマイナスになるため、株を借りている人がマイナスの利子を払う、つまりマイナスのマイナスはプラスということで、日々差額を受け取る状態だったのです。
イメージでいうと、FXで米ドルとか豪ドルを買っていて、毎日スワップポイントを何十円ずつか受け取っている感じです。ですから長期保有も可能でした。
ところがゼロ金利、マイナス金利の現在、売りポジションを持っていると、毎日借りた株のレンタル料や利子を支払うことになりますから、じわじわと資金が減ってきます。
また配当日をまたぐと、売りポジションからは配当と同じ額が差し引かれます。別に元の株には当該企業から配当が支払われているはずなので、この調整費がどこに消えるのかは謎ですが(笑)。
ということで、いくつかの制約やリスクを理解した上で、上手く活用することで利益の可能性を広げてくれるものとして、ご理解いただければと思います。