こんにちは。IT/経済ジャーナリストで投資家の渡辺です。
数年以内に(ある程度信頼性の高い)人工知能を活かした投資サービスが出てくるかと思いますが、現時点で提供されているAI運用サービスについて、投資ネタに詳しいブロガーのタクスズキさんが自ら身銭を切って報告されているので、ご紹介します。
参考: 評判通り?ウェルスナビの運用実績を公開してみる。100万円と毎月自動積み立て10万円の結果は?
●このやり方で勝てるの?
まずはAIだろうが、人力だろうが、投資で大切なことは手数料や税金を取られた後に、1円でも利益を出すことです。
相場なんで絶対はありませんが、利益を出しやすい方法としては、以下の3つが知られています。
- 日本市場やグローバル市場のインデックスファンドを買う
- ドルコスト平均法などで安い時に多く買う
- ダウや日経平均が1,000ポイントくらい下げるパニック売りの時に底値付近で買う
ウェルスナビの目論見書は公開されているので、どのような手法で投資しているのか、上記の原則に合致しているかという視点でチェックしてみました。
●AIはポートフォリオのバランスに使われている
このAI投資サービスは、金融ベンチャーのウェルスナビ社が展開しているものですが、SBI証券での取り扱いがあります。編集人はすでにSBI証券に口座があるので、そのまま申し込めばすぐ使えます。
このシステムの運用アルゴリズムは公開されていますが、それによると顧客がどこまでリスクを取れるか(市場にフリーランチはないので、多く儲けるには多く損する可能性と背中合わせになります)をベースに、市場インデックス(日経平均やダウのような市場の動きを示す経済指標)のETFで、その顧客に最適なポートフォリオを組むというものです。
そして、そのポートフォリオで資産運用しつつ、その推移をモニタリングして、本来取りたい投資戦略や市場とのズレが発生したら、適切にリバランス(ポートフォリオのバランスの調整や修正)をしていくというものです。
そういう意味ではあまり攻撃的なシステムではなさそうです。
しかし、現時点の投資理論でも正当なアプローチを土台にしていること、また信託報酬1%(これは投資による税引き後の収益が1%以上ないと損になります)に対して、期待リターンは一番安全な米国債券でさえ2%以上あります。
ということで、単年はともかく継続して運用していけば、着実に利益が積み重なっていくといえそうです。創業者の方の想いも、普通の人が長期投資で「億り人」なる、というところにありそうです。
●さらにビッグデータも活用したゴールドマンの「ビッグストラテジー」
他にもAI銘柄が提供されており、その中でももっともAI(機械学習)を活用しているものの1つとしては、ゴールドマンサックスから提供されている「ビッグストラテジー」を例示します。
対象は、日本以外の先進国の株式ということで、為替リスクはヘッジされていないので、為替リスクがあることは把握しておくべきでしょう。
それらの先進国の、優良企業を対象に、まずは財務諸表の状況(たとえば現金など流動性の高い資産の多寡や有利子負債など)、直近のビジネス状況での収益性の良し悪しは当然チェックするでしょう。
また自社を含めアナリストのレポートをAIが分析し、アナリストの文体の変化を汲み取り、実際にどのくらいの収益性や勢いがあるのかも機械が判断するようです。
こちらに加え、おそらくニュースでの取り上げられ方、それがいいニュースか悪いか、TwitterなどSNSでの取り上げられ方、Webで検索対象となっているか、また先般のPER、PBRに代表される指標から、割安度も見ているはず。
さらにテクニカル分析で安値圏にいるか、また買われ過ぎか売られ過ぎかといった状況も加味していると思われます。
すでに目論見書でも、ゴールドマンサックスは、「これらのデータ(ビッグデータを含みます。)の活用を競争力の源泉とみなしており、近年その利用割合を増やしているだけでなく、そのデータの種類や利用方法も進化しています。機械学習に代表されるAI技術は、一部の評価基準においてデータ分析プロセスで活用され、特にアナリスト・レポートやニュース記事等のテキストデータを読み込む評価基準において活用されます。
としています。この結果を人間(計量投資戦略グループのシニア・ポートフォリオ・マネジャー)がレビューして最終確認した上で投資を実施しているということでしょう。
かなり株価に影響を与える要素をカバーしていると思われますが、そこは複雑系のマーケットの世界なので、どこでどんなことが起きるかは分かりません。
それでも、絶対はないにせよ、ある株価においてある指標との相関が高い、たとえばドル円が円安に振れると輸出銘柄の株価がx%の確率で上がるとかビッグデータで統計的に分かるようになると、勝率にはプラスに効いてくるでしょう。
ただし購入時の手数料が税込で3.24%、年次の信託報酬が1.3%と意外に高いです。100万円を入れたら3万円以上が最初に取られるということで、ノーロード型(購入時手数料なし)のETFがいろいろある中で、気楽に試そうというレベルではありません(SBI証券では購入時の手数料は取らないようですが)。
コンピュータを使って高速化、効率化し人件費を削減している以上、今後イニシャルの開発費などが回収できたら、手数料も信託報酬も下げていってもらえれば、もっと誰でも気軽に試せるようになるとは思いますが。
●結論
コストやアルゴリズムを考えると、現時点ではいわゆる王道と言われる日本株インデックスとグローバル株式インデックスのパッシブ型投資信託(ETFで十分)を4:6程度の比率になるようポートフォリオを組む、というので十分かと思います。
参考: 編集人の読んだ中では、以下の本が一番よかったように思います。また著者の水瀬さんの最新作も分かりやすいようです。
とはいえ、遠くない将来には、ビッグデータの強みである確率的に有利な組み合わせが解明され、またルール設定や日々の機械学習の進展などである程度の勝率が確認できるファンドが出てくれば、参入しても良いかと思います。
ということで、普通の人にとっては、様子見を決め込みつつ、ある程度継続的にパフォーマンスを上げている商品に対して、少しずつ試してみる、というのでもいいかと思います。
とりあえず編集人もタクスズキさんを見習い、人柱になって、AIファンドの動きやパフォーマンスを体感し、今後とも折を見てご報告したいと思います。